加瀬という男

はじめて加瀬さんに会ったのは10年も前のこと。確かコスタリカの国内線の機内だったと記憶している。席で離陸を待っていると、前から小太りの男性がやってきて、開口一番わたしに
「いもっちゃんチョリース!」
と言ってきた。
激しく動揺しているわたしに、加瀬さんは
「あっコーディネーターの加瀬です」
ようやく状況を理解できたと同時に、これから一週間この方とともに過ごすのかと思うと、急に人見知りセンサーが反応した。
ようは第一印象は最悪だったのだ。



コスタリカは自然豊かな国で、特に鳥と昆虫の楽園といわれている。加瀬さんは、そんなコスタリカの自然や野生動物に魅了されてコスタリカに渡り、観光ガイドやコーディネーターをやっている。

なかでも超がつくほどの鳥好きで、鳥のことになると激しく興奮し、すべての優先順位がひっくり返される。
正直に言うと、ロケでがっつり野生の鳥を紹介するというのはなかなか難しく、いたとしてもかなり遠くの方で、カメラで捕らえるのが難しい上、すぐに飛んでいってしまうため、一瞬なのだ。その上、こんなことを言うのは本当に申し訳ないのだが、少し地味感も否めない。
なもんで、わたし含めスタッフ一同、鳥に対しての熱量は少し低めなのである。
しかし加瀬さんは違う。圧倒的な熱量で鳥を激推ししてくる。
スケジュール的にも次の場所に移動しなければいけないのだが、そんなのお構いなしに、血眼になって鳥を探してくれている。あまりにも一生懸命なので、加瀬さんもう大丈夫ですよ、と誰も言い出せない空気。
だが、わたしたちも限りある時間をすべて鳥には費やせないので、その旨を加瀬さんに伝えると、あまりの悔しさからか自分で自分を殴っていた。熱く純粋でまっすぐな人なのである。

お仕事に関しても本当に全身全霊で、例え泥だらけになろうと、藪で傷だらけになろうと、突き進んでくれるのだ。
その結果、とにかく加瀬さんはアリに噛まれる。
ジャングルで一番恐ろしいのは、実はアリだといわれるくらい、中米や南米のアリは怖い。サイズも牙も日本のアリとは比べものにならないほどで、噛まれると本当に電流が走るくらい痛い。しかも一匹だけでなく、何百匹単位で襲ってくるのだ。
何故か加瀬さんは何度もアリに噛まれ、その様子が何度もテレビで放送されている。

とにかく加瀬さんは一挙手一投足が面白く、わたしとしてはいつも嫉妬してしまうのだが、加瀬さんが現場にいるだけで明るくなるのだ。
そしてなぜだろう、何でも言えてしまう。他の人には言えない我が儘も言えてしまう。
こんだけやっていて言うのもあれだが、絶叫マシーンが苦手なわたしを見かねて、加瀬さんも苦手だが、一緒にカメラには映らないところで乗ってくれたり、なんだかんだ言いつつ、めっちゃ頼りにしているのだ。それはわたしだけでなく、見ていると、スタッフさんも同じような気がする。
第一印象は最悪だったが、何度も異国で一緒に過ごすうちに、気がつきゃ加瀬の虜になっていたわたし。そんな加瀬さんとの交流は、コロナ渦でコスタリカから日本で過ごすことになった今も続いているのだ。

そのお話は後編にて続く。 

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